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2.パイパンというオードブル
渋谷駅前のスクランブル交差点を抜け、道玄坂をとぼとぼ歩く。期待半分、冷やかし半分。韓国エステの客引きを振り払い、僕らはようやくたどりついた。
「お、ここや。21時から23時半までって書いてる」
すでに時刻は22時。
戸惑いながら入り口にそっと入ると、もぎりのオヤジが立っていた。招待券を荒々しく引きちぎられ、地下の劇場へ降りて行くよう案内された。僕は期待が冷やかしを上回り、少しかかとを浮かせていた。
ポスターが踊る階段を訝しげに下り、観音開きの大きな扉を目の前にする。従業員が「いらっしゃいませ」と扉を開けると、そこは暗闇に光明が差す小空間。ゆったりとした音楽が流れていた。
酒はどこだろう。テーブルはどこだろう。暗闇の小さな部屋の中央に、ライトの当たる円形ステージがある。客席がそれを取り囲み、後方に若干の立見席がある。見当はずれもいいとこで、デミ・ムーアの世界は微塵もなかった。
昭和の残り火がくすぶっていたのだ。
席は満席だったため、ひとまず立ち見をすることに。舞台上の女優さんは、すでに一糸まとわぬ姿だ。そこで僕らは驚いた。
パイパン。
無地の麻雀牌「白牌」が語源の「パイパン」。女優さん、いきなりアソコが無毛なのだ。
「ストリップって、毛がないの?」
曲に合わせて開脚、閉脚を繰り返すしっとりとしたその踊りは、すでに後半を迎えていたらしい。恍惚の表情を携えたまま女優さんは、幕の奥へと歩いて消える。ゆったりめの音楽も、フェードアウトしていった。まだ「ストリップ」を把握しきれていないのに、もう、ショーは終わりなのだろうか。
友人と顔を見合わせていると
突如、軽快な音楽が流れ出した。
「はーい、おつかれさまでしたぁ」
部屋が明るくなり、雰囲気もガラッと変わって、パチンコ店のマイクアナウンスのような男性の声が聞こえてきた。
「えーポラロイド撮影、1枚500円でございます。えー、どなたかいらっしゃいませんか?」
先ほどの女優さんが、ピョンピョン飛び跳ねながら再登場した。「疲れたにゃーん」と言いながら舞台にペタンと腰を下ろす。その手にはカメラの入ったバスケットが。
説明しよう。
女優さんのショーが一通り終わると、ファン感謝祭のようなひとときを設けるのが常らしい。客の中から挙手した者は1枚500円でポラロイド撮影を許可され、女優さんに好きなポーズを取らせることができるのだ。
女:は〜い、どなたか写真いりませんか〜?
客:あ、はい、買います。
女:にゃーん、ありがとー。はい、これカメラ。
客:は、はい、はい。
女:どうする? ポーズは? こう? こんな感じ?
客:えっと、じゃあ、足を開いて座ってください。
女:こう?
客:えっと、もうちょい開いて、そそ、そう!
カシャッ!
字面で見るとアホかと思うが、ここには舞台女優と観客との温かい心の交流がある。
お客さんの望みを叶えんとする、女優。女優をキレイに撮ってあげたい、観客。おさわりサービスなどあるはずもなく、ファインダー越しに心と心を通わせていくのだ。
挙手した数名が撮影を終え、「んじゃあ、ばいばーい」とニャンニャン言葉の使い手は再び幕の奥へと消えた。踊りで見せた恍惚の表情と、カメラ撮影時の異常なテンションとのギャップ。「何なんだ、一体」とキョトンとしていた僕は「おい、席に座ろうぜ」と友人に背中を押されていた。
そう、まだまだ舞台は続くのだ。
女優は一人だけではない。時間いっぱい、後に続いていくのである。今の女優で見納め、と思えばいつでも自由に退席できるようで、2時間半の上演は入れ替え制ではないらしい。何人かが退席し、僕らの座るスペースができた。
円形ステージに近づいた。最前列ではなかったが、弧を描く長椅子に腰掛けたとき、少し落ち着いてきた自分がいた。周りの客を観察する余裕が出てきた。
やはり多いのは年配層。30代もいるにはいるが、意外なのは、総じて身形がまともなこと。性風俗に群がる猥雑なオトコどもという図式はまったくなくて、むしろ上品な出で立ちの男性が多いのだ。
次のステージは、さっきと違い、頭から終わりまで見届けられる。客の反応も視界に入れながら、しかとこの眼に刻もうではないか。
心はすでに、興味を加速させていた。
つづく。
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